平井動物病院|東京都江戸川区|犬・猫

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【コラム】人と犬と猫の腸活

今回は腸活についての話です。大体は人の話で、一部が犬猫の話となります。

 

腸活とは

腸活とは「腸内環境を整えて全身的に健康になることを目的とした活動」のことです。

腸内環境とは一般的に「腸内細菌叢のバランス(菌の多様性、善玉菌の割合など)」を意味しています。

つまり、腸内細菌叢のバランスを整えることが腸活であるということになります。

 

腸内細菌について

腸内細菌は動物と共生関係にあり、身体の機能の一部を担っている重要な存在です。具体的には「短鎖脂肪酸やビタミン(B群、K)の産生」「腸内の免疫活性化」などに寄与しています。

腸内細菌と言えば大腸菌のイメージがあるかもしれませんが、大腸菌の数は少ないです。ほとんどは偏性嫌気性菌です。善玉菌、悪玉菌、日和見菌など多種類の菌が集まって腸内細菌叢を形成しています。そのバランスが全身の健康において重要となります。

 

腸内環境が全身に与える影響

腸内環境は以下のような全身の健康状態と関連していることがわかっています。

・便の状態(便秘、下痢など)
・免疫(感染症、アレルギー、癌など)
・脳(脳機能、精神状態など)
・代謝(肥満、糖尿病、高脂血症など)
・腎臓(慢性腎臓病など)
 

善玉菌が増えて腸内環境が良化すると、「便通の改善」「免疫増強」「免疫調整」「心の安定」「代謝性疾患の予防や改善」「尿毒症の改善」などの好影響がもたらされる可能性があります。

逆に悪玉菌が増えて腸内環境が悪化すると、有害物質産生が増えて全身への悪影響がもたらされる可能性があります。

悪玉菌もタンパク質の分解や免疫活性化などに関連してある程度の数は必要なようです。ただ、減りすぎて問題が生じたという話は聞きませんし、減らそうとしてもゼロになるわけではないでしょうから、基本的にはバランス云々というよりも善玉菌を増やすことを考えればよいのだろうと思われます。

 

腸内環境を良くする方法

人であれば、「適度な運動」「良い睡眠」「良い食事」「アルコール制限」「ストレス軽減」などをまず考えて、さらにやるならサプリメントということになるでしょう。

動物の場合も大体は同じであろうと思われます。ただし、動物種によって腸の構造や機能は異なりますし、食べるものも異なりますし、腸内細菌叢も異なります。ですから、犬猫の腸活において全て人と同じようにすればよいとは限りません。

なお、上記と逆のことをすると腸内環境は悪くなります。それから、抗菌薬を飲むと腸内細菌叢のバランスは破壊されてしまいます。抗菌薬はどうしても必要な時以外は飲まないことが肝要です。

 

プロバイオティクス、プレバイオティクス、ポストバイオティクスとは

整腸作用のある食品、サプリメント、薬などを大きく分類すると、「プロバイオティクス」「プレバイオティクス」「ポストバイオティクス(バイオジェニクス)」に分けられます。

・プロバイオティクス⇒生きた善玉菌

・プレバイオティクス⇒善玉菌の餌となる栄養成分

・ポストバイオティクス(バイオジェニクス)⇒死んだ善玉菌および代謝産物

 

プロバイオティクスについて

プロバイオティクスは「生きた善玉菌」です。最も有名な薬はビオフェルミンですが、それ以外にも多種多様な薬やサプリメントが存在します。また、ヨーグルトや納豆などの食品もプロバイオティクスに含まれます。

善玉菌を摂取して腸内で定着して増えてくれればよいのですが、話はそう単純なものではありません。ほとんどの菌は胃酸や胆汁酸に晒されて死滅します。また、生きたまま腸に到達したとしても定着はせず、便として出ていってしまいます。一方で、死菌も無駄になるわけではなく良い効果をもたらしてくれます。なんとも複雑な仕組みです。

生きたまま腸に届いた菌は腸内で善玉菌として直接的に働き、死滅した菌は善玉菌の餌になったり腸の免疫機能を活性化させたりして間接的に働きます。このように、生菌と死菌は異なる効果をもたらします。どちらがより重要なのかはケースバイケースのようですが、近年は生菌にこだわらず死菌を大量に摂取するほうがよいという見解が主流のようです。

生きたまま腸に届くほうがよい菌として思い浮かぶのは、獣医療で使われている「アゾディル」というプロバイオティクス製品です。窒素老廃物を代謝する生菌が入っていますので、この製品に限っては生きたまま腸に届かせる必要があるのだろうと思われます。

ただ、一般的な話としては、プロバイオティクスは生きたまま腸に届かないと意味がないわけではないし、生きたまま腸に届かせる重要性も定かではないということが言えます。また、定着はしませんので毎日摂取し続ける必要があります。

プロバイオティクスの効果は菌種や菌数などによって大きく異なるようです。どうせやるならエビデンスがあるものを選ぶのがよいでしょう。ただし、個体差や相性もあるようですし、必ず効果が出るとは限りません。身も蓋もない話ですが、ヨーグルトや生きた乳酸菌を摂取し続けたとして、効果があるかもしれませんし、何の効果もないかもしれません。

 

プレバイオティクスについて

「元から生息している善玉菌を増やすために餌となる栄養成分を摂取する」という概念がプレバイオティクスです。具体的には水溶性食物繊維やオリゴ糖です。食品からの摂取が不足している場合はサプリメントで補うのがよいでしょう。食品の例としては、「納豆」「ゴボウ」「アボカド」「オクラ」「バナナ」などが挙げられます(他にもたくさんあります)。サプリメントの成分としては、「イヌリン」「サイリウム」「ケストース」などが挙げられます。

人と犬猫では腸内環境が異なりますので、人と同じように摂取するのがよいとは限らないわけですが、少ないながら犬猫における研究報告もされており、エビデンスも増えてきています。

 

・サイリウム

獣医療においては「食物繊維といえばサイリウム」という認識が定着しています(なんでもかんでもサイリウムでいいのか?と思うところがあります)。猫の便秘に対して使われることが多いですが、下痢に対して使われることもあります。腸内細菌への影響というよりは水分を吸って餅のように膨らむ性質によって便秘や下痢が改善します。他の食物繊維と比べて善玉菌の餌にはなりにくいですが、人ではコレステロール値低下や血糖値上昇抑制など様々な効果が報告されています。また、胃腸内で膨らんで満腹感が得られますのでダイエットにも良いと考えられます。

獣医療において最もよく使われている食物繊維ですが、腸内環境の維持・改善において最適かどうかはわかりません。ただ、イヌリンなどは犬猫の推奨量が不明ですので、論文報告が多いサイリウムがよく使われているのだろうと思われます。

 

・腸内バイオーム(療法食)

近年の獣医療においては「食物繊維といえば腸内バイオーム」という認識もおそらく定着しています。これは多種類の食物繊維が入っているヒルズ社の療法食です。個人的には急性および慢性下痢の犬猫でよく使いますし、効果も出ている気がしております。下痢に効くのは善玉菌が増えるせいなのか食物繊維が水分を吸ったりする物理的な作用によるものなのか不明ですが、即効性があるのはおそらく後者によるものでしょう(善玉菌を増やす効果もあるようですが)。

 

・ケストース

ケストースはオリゴ糖です。最近は犬アトピー性皮膚炎の治療に関連してケストースが推されています。腸の健康維持による免疫系のサポートということでしょう。アトピーがなくても腸活目的で使ってみるのはよいと思います(当院ではまだ取り入れておりません)。

 

ポストバイオティクス(バイオジェニクス)

ポストバイオティクスには生菌は入っておらず、死菌および代謝産物(短鎖脂肪酸など)が入っています。腸内で善玉菌に代謝産物を作らせるのではなく、培養・精製された善玉菌の代謝産物を直接摂取するという概念です。また、既に述べたように死菌は善玉菌の餌になったり免疫を活性化させたりといった効果ももたらします。

プロバイオティクスは菌種や個体による差が大きく効果が不確かであり、プレバイオティクスは元からいる善玉菌の能力が不明でどれだけ増やせるか不確かであり、それらと比較してポストバイオティクスは個体差なく確実に効くであろうと考えられているようです。

獣医業界ではポストバイオティクスは認知度が低いようで、存在自体を知らない獣医師も多いと思われます。動物用の製品は以前から販売されており、当院でも使っております。

 

現状における当院の処方について

当院では、プロバイオティクス(ミヤBM、サイネオミックスなど)、プレバイオティクス(腸内バイオーム)、ポストバイオティクス(フローラケア)などを使っております。下痢や軟便を継続的または断続的に呈する場合にはプロバイオティクスやプレバイオティクスを、散発的に呈する場合にはポストバイオティクスを、といった感覚で使っております。消化器症状のない動物に対しての腸活という観点では現状はほぼ実践しておりません。

 

・サイネオミックス

最近は「サイネオミックス」というプロバイオティクス製品が大ヒットしているようです。個人的経験としても、下痢の症例に使うと腸の健康維持に良い印象があります。生きたまま腸に届いているかは知りませんが、入っている菌数が非常に多いことが腸の健康維持に良い要因となっているのであろうと考えられます。長期間飲ませ続けている動物もいます。

 

・フローラケア

当院では「フローラケア」というポストバイオティクス製品を使っております。下痢が生じている最中に使うというよりは、改善した後に腸の健康維持のために使っているという感じです。こちらも個人的経験として良い印象があります。

 

今後の展望

当院では、現状は犬猫の腸活を積極的には勧めておりません。飼い主さんに関心がないと勧めるのは難しいかなと思っておりますので、関心がある方はぜひ仰っていただければと思います。消化器疾患以外では猫風邪などに効いてくれるとありがたいのですが、エビデンスは乏しいです。試してみたいという方は仰ってください。

何を優先的に行うかという話ですが、個人的にはポストバイオティクスを推奨したいです。ポストバイオティクス製品は基本的に高額ですが、動物用のものはそこまで高額ではありません。他には、プレバイオティクスとしてケストースも使ってみたいと考えております。

 

院長の話

興味ないと思いますが、院長自身はポストバイオティクス、オメガ3脂肪酸、ケストース、イヌリン、ビタミンDなどのサプリメントを飲んでおります。食品としては納豆、オクラ、トマト、果物、玄米などはよく食べております。コーヒーは1日1杯程度、アルコールはビールを1日1本飲んでおります(正確にはビール1本とノンアルコールビール1本)。ワインを飼い主さんからたまにいただきますが、最近は酒豪のスタッフに飲んでもらっております。

元々割と健康なので、食事に気を付けたりサプリメントを飲んだりしても健康増進効果はさほど実感しておりません(むしろ軟便傾向になっていてそれが良いことなのかどうか不明)。外食でお腹を壊すことはありますし、花粉症も治っておりません。肌は綺麗と言われますが多分サプリメントとは関係ないです。痩せているのも関係ないです。ただ、やや高かったLDLコレステロール値は基準値内に下がりましたし、血圧も下がりました。いろいろやっていますので、何が効いたのかは不明です。

 

動物と飼い主さんの腸活

全くもって余計なお世話ではあるのですが、腸活するなら動物だけでなく飼い主さんも一緒にやるのがよいと思います。自分の健康にも良いですし、一緒にやればモチベーションも上がるはずです。

人に関しては、個人的にはまずはビタミンDとプレバイオティクスかなと思います。ビタミンDは腸のバリア機能を高めたり、腸内細菌の多様性を高めたりするようです。プレバイオティクスとしては野菜や納豆を食べるのもよいでしょうし、ケストースやイヌリンなどのサプリメントを摂取するのもよいでしょう。これらのサプリメントはさほど高額ではありませんので始めやすいと思います。ポストバイオティクスは高額ですが、やる気のある方はそれもやっていただくのがよいと思います。

動物に関しては、動物におけるエビデンスを重視(または動物用の製品を使用)するのがよいでしょう。人の健康に良いものが動物にも良いとは限りませんので、自己判断ではやらないほうが無難です。例えば、ビタミンDは人の腸活において有用であり、動物でもおそらく同じかもしれませんが、推奨量が不明で過剰症となるおそれがあるため適当に与えないほうがよいでしょう。食品に関しても極端なことはしないほうがよいと思います。

「動物と飼い主さんで一緒に腸活を」と書きましたが、現実的に一緒にできることはケストースの摂取などでしょうか。さらにやるなら、それぞれ動物用と人用のプロバイオティクスやポストバイオティクスの摂取といったところになるかと思います。

 

おわりに

余談ですが、私は大学時代は腸内細菌の研究室に3年間所属しておりました(私は腸内細菌ではなく食中毒菌の担当でしたが)。昔から馴染みのある分野ですが、獣医臨床でもここまで注目されるようになるとは思わなかったです。今後さらに研究が進むことを期待しております。

2026年09月22日 19:29
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