平井動物病院|東京都江戸川区|犬・猫

平井動物病院は、的確な診断と過不足のない治療を信条とし、費用を抑えながら質の高い医療を提供いたします。

【病気解説】犬と猫の膀胱炎

膀胱炎の種類

膀胱炎は「細菌性」「無菌性」に分けられます。

犬では「細菌性」が多いです。猫では若齢〜中年齢で「無菌性」が多く、幼齢および高齢で「細菌性」が多いです。

 

膀胱炎の治療=抗菌薬?

「膀胱炎の治療=抗菌薬」と思われがちですが、それは細菌性膀胱炎に限った話です。無菌性膀胱炎に抗菌薬を使用する理由はありません。膀胱炎に対してとりあえず抗菌薬を処方するという獣医師は非常に多いのですが、これは時代遅れで間違っています。細菌感染による膀胱炎なのかどうかを確認してから抗菌薬を使用する必要があります。

 

細菌性膀胱炎の治療

尿に細菌と白血球が認められ、且つ、症状(頻尿、血尿、排尿痛など)がある場合に治療を行います。治療法は、抗菌薬や消炎鎮痛剤の投薬です。

尿に細菌や白血球が認められても、症状がなければ治療対象にはなりません(無症候性細菌尿)。放置すると腎盂腎炎に進行するリスクがあると言う獣医師もいるかもしれませんが、それは研究結果によって否定されています。無症候性細菌尿に対して抗菌薬を使うと余計な耐性菌を作り出してしまいます。

なお、「尿が臭い」というのは症状ではありません。尿が臭くて菌が存在しても症状がなければ治療は推奨されません。

 

無菌性膀胱炎の治療

猫の膀胱炎の大半は「特発性膀胱炎」と呼称される無菌性膀胱炎です。原因としてはストレスや水分摂取不足などが考えられています。

治療法は確立されておらず何をやっても奏効しませんが、一方で、何もしなくても大体数日で改善します。

抗菌薬、消炎鎮痛剤、ステロイド、止血剤などが処方される場合がありますが、どの薬も効果は証明されていません。薬が効いたと感じるのは錯覚であり、自然治癒しただけであると考えられます。

自然治癒するとしても繰り返し発症するような場合は対策が必要です。ストレス軽減、トイレなどの環境改善、水分摂取増加、療法食またはサプリメントの使用、などを試行錯誤しながら行っていきます。

 

膀胱炎の診断

膀胱炎っぽい症状(頻尿、血尿、排尿痛など)があっても、膀胱炎とは限りません。同じ症状を呈する病気としては「結石(膀胱、尿道)」「腫瘍(膀胱、尿道)」「前立腺疾患(細菌感染、膿瘍、過形成、癌)」などがあります。頻尿がなく血尿だけであれば「腎臓・尿管の疾患(結石、細菌感染、奇形、癌など)」の可能性もあります。

これらを鑑別するために、尿検査および画像検査(X線、超音波)を行います。

 

当院で行う検査

当院では、尿検査と超音波検査を必ず行うようにしております。優先順位としては「超音波検査>尿検査>X線検査」です。

尿検査だけでよいのではないかと思われるかもしれませんが、犬猫では膀胱結石が高頻度で認められ、これは尿検査では診断できません。結石の有無によって治療法が大きく変わってきますので、私は必ず最初から超音波検査を行うようにしております。

膀胱結石の検出には超音波検査が優れていますが、一方で、尿道結石の検出にはX線検査が優れています。偉い先生方は両方検査しろと仰いますが、頻尿で来院した動物全頭に対して尿検査と超音波検査とX線検査を行うのは無理があるだろうと個人的には思っております。X線検査を省略する場合は尿道結石見逃しのリスクがありますので、そこは獣医師の能力によって回避しなければいけないということになります。

 

採尿方法について

尿検査のための採尿方法として、以下のようなものが挙げられます。

・ふつうに排尿した尿を採取(自然排尿)
・腹部を圧迫(圧迫排尿)
・尿道カテーテル
・膀胱穿刺
 

圧迫排尿は動物にストレスがかかりますし、腎臓への尿逆流のリスクがありますので推奨されません。

膀胱穿刺はリスクが小さく雑菌が入る可能性もありませんので最も推奨されます。

尿道カテーテルは動物にストレスがかかりますし、雑菌が入る可能性もありますので推奨されません。ただし、どうしても採尿したい時や、膀胱癌の疑いがあって穿刺したくない時などに行う場合もあります。

当院での方法は、「自然排尿」または「膀胱穿刺」です。家で採尿できる場合は持参してもらいます。持参していない場合は、犬であれば「屋外に出て自然排尿」または「膀胱穿刺」、猫であれば「膀胱穿刺」となります。

膀胱穿刺はかわいそうと思われるかもしれませんが、圧迫排尿や尿道カテーテルのほうが強いストレスがかかるということをご理解ください。採血と同じ太さの針を使っておりますのでさほど痛いわけではありません。カテーテルは尿道を傷つけますし、尿道内の細菌を膀胱に流してしまいますし、痛みも穿刺より大きいです。飼い主受けを優先して尿道カテーテルを頻用するのは良くないことであると個人的には考えております。

また、膀胱穿刺は検査の正確性においても優れています。犬で膣炎などがあると「自然排尿の尿は汚いけど膀胱穿刺尿はきれい」といったことも起こります。膀胱炎の治りが悪ければ一度膀胱穿刺尿を検査してみることをお勧めしております。

 

尿検査ができないという問題

「頻尿」「病院に歩いてくる途中に排尿した」「キャリーの中で排尿した」などの理由で尿が貯留していない場合がよくあります。このような場合はすぐに尿検査ができません。

「尿が貯留するまで数時間預かる」「後日また来院してもらう」「尿検査なしで治療を進める」のいずれかを選択することになります。

 

尿検査なしで治療する場合の当院での対応

数時間預かって採尿するのがベストですが、当然ながら全員に同意していただけるわけではありません。

・猫の場合
超音波検査を行い、膀胱に結石や砂があれば療法食を開始します。結石や砂がなければ膀胱炎と判断し、猫の年齢や状態から「細菌性」「無菌性(特発性)」を推測します。「無菌性(特発性)」が疑われる場合は、「ストレスや環境の改善」「水分摂取を増やす」などの対応を行います。「細菌性」が疑われる場合は、尿検査を行わないと先に進まないことを説明し、治療は開始しません。

・犬の場合
超音波検査を行い、膀胱に結石や砂があれば療法食を検討します。ただし、犬では結石と細菌感染が関連している可能性があるため、基本的には尿検査を行ってから療法食を開始するようにしております。結石がなければ膀胱炎と判断し、消炎鎮痛剤の内服を行います。数日経っても改善しなければ、尿検査を行った上での抗菌薬内服をお勧めします。
 

消炎鎮痛剤による治療

犬では細菌性膀胱炎がほとんどであるとされていますが、当院では、細菌がはっきりと確認できない場合にはなるべく消炎鎮痛剤で治療するようにしております。細菌が存在しているとしても抗菌薬は必須ではなく、消炎鎮痛剤のみで改善していくことはよくあります。

 

尿検査なしでの抗菌薬使用

「尿検査や画像検査を行わずに抗菌薬を使用する」「尿検査で細菌感染がなさそうなのに抗菌薬を使用する」といった治療がよく行われています。猫は無菌性の膀胱炎が多いですから、抗菌薬は盲目的に使うべきではありません。犬は細菌性の膀胱炎が多いですが、膀胱結石も多いわけですから、尿が採取できない場合でも最低限結石の有無は確認したほうがよいと思います。

前述のとおり、当院では尿検査なしでは抗菌薬を処方しておりません。ただ、そうすると何も治療せずに帰すことになる場合があり、文句を言われたりgoogle mapに悪口を書かれたりします。元から当院に来られている方は大体私の方針にご理解いただけるのですが、かかりつけの病院が休みで当院に来られた方は文句を言ってくる確率が高いです。「かかりつけの病院なら抗菌薬を処方してくれるのにこの病院は何もしてくれず金だけとられた」といった不満が生じるのは理解できるのですが、当院は抗菌薬の適正使用を優先しております。ご了承ください。

 

薬剤感受性検査および耐性菌について

尿中の細菌を詳しく調べるためには、細菌の同定と薬剤感受性検査が必要です。

個人的には、単発の細菌性膀胱炎であれば薬剤感受性検査までは行っておりません。「治らない」「再発する」「腎盂腎炎が疑われる」「結石との関連が疑われる」などの場合は検査をお勧めしております。検査は1万円位で、結果が出るまで1週間程度かかります。

菌種としては、大腸菌、ブドウ球菌、腸球菌などが検出されることが多いです。一般的に、大腸菌にはアモキシシリンまたはセファレキシン、ブドウ球菌にはセファレキシン、腸球菌にはアモキシシリンを使っているのですが、感受性検査をしてみると、大腸菌とブドウ球菌に関しては多剤耐性であることがけっこう多いです(割合としてはおそらく1/3程度)。これには非常に困っております。なるべく温存したり慎重に使ったりするようにしており、結石溶解のために抗菌薬が必要な場合も先々まで見越して計画的に使うようにしております。

 

膀胱炎の誤診

膀胱炎が治らないという場合は、まず、本当に膀胱炎なのかどうかを考える必要があります。血尿や頻尿の原因のほとんどは膀胱疾患であるため、腎臓や尿管については獣医師も忘れがちです。「頻尿がなく血尿だけを呈している」「血尿や膿尿を呈していて全身状態も悪い」などの場合は、膀胱よりも腎臓や尿管の疾患の可能性のほうが高いです(腎結石、尿管結石、腎出血、腎盂腎炎など)。

 

治らない細菌性膀胱炎

細菌性膀胱炎が治らない場合は、まずは細菌の同定と薬剤感受性試験は必須ですが、それさえやれば治るとは限りません。細菌感染を引き起こす基礎疾患(結石、前立腺炎、内分泌疾患、慢性腎臓病、外陰部の形成異常など)がある場合は再発を繰り返します。基礎疾患がはっきりしない場合は奇形など特殊な病気も考えられ、CT検査や膀胱鏡検査などが必要となるかもしれません。

慢性腎臓病で細菌性膀胱炎を繰り返すケースはよくみられますが、完治は難しいです。強い抗菌薬を使ってもいずれ効かなくなります。個人的には1〜2回は抗菌薬を使ってみますが、どこかの段階であきらめてクランベリーなどのサプリメントに移行するようにしております。サプリメントはバカにできず、使ってみたら調子が良いというケースもけっこうあります。

 

治らない特発性膀胱炎

猫の特発性膀胱炎に関しては、治療がうまくいかないケースはたまにあります。薬は基本的には効きませんので、治らないからといって何でもやればよいというわけではありません。

特発性膀胱炎に対してステロイドや抗菌薬を処方する病院も存在します。弱小病院ではなく大きめの病院でもけっこうやっているようで、治らず長期間投薬し続けている事例も見たことがあります。これらの薬の有効性は証明されていません。ステロイドと抗菌薬は過去数十年にわたって散々使われてきたでしょうから、それにも関わらずエビデンスがないということはつまり効かないということです。「これがうちの病院のやり方で今までうまくいっているんだ」ということなのでしょうけれども、害があるのでやめてほしいです。

鎮痛薬(ブプレノルフィン、NSAIDSなど)にもエビデンスはありません。ただ、膀胱炎による苦痛が軽減するのであれば使ってもよいとは思います。有効性がはっきりしないため当院では使っておりません。

抗鬱剤(アミトリプチリン)は微妙ながら多少エビデンスはあるようですが、当院では使ったことはありません。難治性の場合は使ってみてもよいのではないかとは思っております。

止血剤は効果はありません。トラネキサム酸で血が止まるわけがありませんし、消炎効果も証明されていません。ただ、膀胱炎で使う分には害はありませんので、何か薬出しときゃいいだろという方針なのであればこの薬がよいかもしれません。

「特発性膀胱炎は薬が効かないから何もできません」と言うのはめちゃくちゃ感じ悪いですから、何か薬出しとけということになってしまうのでしょう。当院は飼い主受けは重視しませんので、説明した上で何も出さないです。環境改善やフード変更の指導をしております。

 

細菌性膀胱炎と腎盂腎炎

尿検査で細菌感染が認められた場合、「感染が膀胱で生じているのか、腎臓で生じているのか」は尿検査だけではわかりません。ほとんどは膀胱なのですが、たまに腎臓の場合(腎盂腎炎)があります。

一般的に、膀胱炎では全身状態はさほど悪化しませんが、腎盂腎炎ではかなり悪化します。尿に細菌感染が認められ、且つ、食欲不振・嘔吐・発熱などの症状がある場合は、膀胱炎ではなく腎盂腎炎を疑うことになります。

腎盂腎炎が疑われた場合は、尿検査と超音波検査の他に血液検査も行い、白血球数や腎数値などを確認します。

治療としては、抗菌薬をやや長めの期間使用し、状態に応じて輸液や制吐剤の投与なども行います。

 

雄犬の前立腺炎について

中年齢以上の未去勢の雄犬で尿に細菌感染がみられる場合は、膀胱だけでなく前立腺にも感染が生じていることを想定したほうがよいでしょう。前立腺炎は抗菌薬が効きにくく、なかなか治りません。

去勢をすれば前立腺は縮小しますので、前立腺炎が良化しなかったり再発を繰り返したりする場合には去勢が推奨されます。

前立腺炎が悪化して前立腺膿瘍になると非常に危険です。抗菌薬だけでなく穿刺による排膿や前立腺の手術が必要となってきますが、亡くなる可能性も高いです。前立腺膿瘍になってから去勢しても効果はありませんので、膿瘍になる前の段階で去勢をするのが望ましいです。

 

猫の膀胱炎とストルバイト砂粒

猫の膀胱内にストルバイトの砂ができることがよくあります。砂が存在すると、膀胱壁を刺激して膀胱炎と同じような症状が出たり、雄猫では尿道閉塞の原因になったりします。

砂の有無は超音波検査で確認します。雄猫でストルバイトの砂が存在する場合は、早急に療法食を食べさせて溶解させたほうがよいでしょう。尿道閉塞だけは避けたいところです。

膀胱炎様症状の原因が砂なのか、膀胱炎なのか、の診断は重要です。診断を間違えると、「食事療法をやらないといけないのに膀胱炎と勘違いして不要な抗菌薬を使い続ける」とか「膀胱炎の治療をしないといけないのに尿結石用療法食を食べさせて治療した気になっている」といった状況になってしまいます。

なお、たまにシュウ酸カルシウムの砂ができる場合もあり、これはなかなか厄介です。食事、サプリメント、水分摂取、手術など、いろいろ考えることになります。

 

特発性膀胱炎の食事療法について

泌尿器用の療法食は、基本的には尿結石対策のフードですので、特発性膀胱炎に対して効果が期待できるとは限りません(効果がみられる場合もあります)。

最も有名な製品は「ユリナリーS/O(旧pHコントロール)」ですが、これは主にストルバイト結石の治療または予防のための療法食です。特発性膀胱炎に対しても有効と謳われてはおりますが、これは塩分が一般的なフードの2~3倍含まれており、「塩分摂取増加→飲水量増加→尿希釈」という機序によるものです。塩分摂取は良い効果ばかりではなく、特に高齢動物においては注意が必要となります。

猫の特発性膀胱炎に対しては、個人的には「ユリナリーS/Oエイジング7++CLT」というフードをお勧めしております。塩分は多くありませんし、尿結石だけでなく特発性膀胱炎にも効果が期待できる組成になっています。別の方法としては、療法食を使わずにウェットフード主体(ふつうの総合栄養食でかまいません)に切り替えて水分摂取を増やすのもよいかもしれません。

療法食を使用する場合は、「ストルバイトの石や砂」「特発性膀胱炎」のどちらが問題なのかを判断した上で、適切なものを選択する必要があるということになります。

2025年04月30日 21:45
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