【コラム】ネブライザーについて
慢性鼻炎に対するネブライザー治療
当院では、猫の慢性鼻炎に対してネブライザー治療を行うことが多いです。以前は超音波式を使っておりましたが、最近コンプレッサー式(ジェット式)に買い替えました。そのせいかどうかわかりませんが、こちらの想定以上に効果がみられる場合もあります。
個人的には、ネブライザーは鼻の中に溜まった鼻水を排出させる目的で行っております。使っている薬液は生理食塩水と去痰剤のみで、抗菌薬やステロイドは使っておりません。ネブライザーの効果が出ると、くしゃみと共に濁った鼻水が大量に排出されて鼻の通りが良くなります。
ネブライザー以外の治療法としては、「水およびステロイドの点鼻」をお勧めしております。こちらはあまり効果は実感しておりません。猫が嫌がるので指示通りにやっている方が少ないのかもしれません。
大量の鼻水が鼻の中で固まってしまうと、ネブライザーや点鼻を行っても排出されません。そのような場合は麻酔下での鼻腔洗浄が必要となります。そうならないためには早めの対処が望ましいです。

猫の慢性鼻炎とは
猫の慢性鼻炎は、猫風邪(ヘルペスウイルスやカリシウイルスによる感染症)が慢性化したケースが多いです。長期間にわたって「くしゃみ」「鼻水」「鼻血」「鼻詰まり」などの症状がみられます。
細菌が二次的に感染している場合もありますが、それが根本的な原因ではありません。ですから、抗菌薬を使うと少し良くなるものの、やめるとまた再燃します。きりがありませんし、そのうち耐性菌だらけになります。コンベニアを延々と打ち続ける病院もありますし、それを希望する飼い主もいるわけですが、当院ではそのような治療は行っておりません。抗菌薬は、急性期や全身状態が悪い場合に短期的に使うのはよいでしょうけれども、使い続けることは推奨されません。
鼻炎と似た症状を呈する病気として鼻腔内腫瘍があります。腫瘍が疑われる状況としては、「高齢である」「鼻血が多い」「顔の変形がみられる」などが挙げられます。ただし、若くても腫瘍ができることはありますし、鼻炎でも鼻血や顔の変形が生じることはありますので、症状からだけでは確定はできません。
「慢性鼻炎が治らない」あるいは「腫瘍が疑われる」場合には、二次病院でのCT・MRI、内視鏡、生検、鼻腔洗浄などをお勧めしております。
ちなみに、鼻腔内腫瘍は「腺癌」または「リンパ腫」が大半です。腺癌の治療は放射線、リンパ腫の治療は放射線または抗癌剤となります。放射線治療は非常にハードルが高いですが、抗癌剤はそこまでではありません。二次病院で鼻腔内リンパ腫と診断されて当院で抗癌剤治療を行うことはよくあります。
猫風邪の治療
慢性鼻炎の原因となる猫風邪の治療や予防は難しいです。まず、栄養状態、衛生状態、多頭飼育によるストレス、などの問題があれば改善させるのが望ましいです。そして、それ以外に何かできるのかということになります。
混合ワクチンは定期的に打ったほうがよいでしょう。ただ、毎年打てばより効くのかというと個人的にはそのような気はいたしませんので、当院では3年に1回をお勧めしております。
抗ウイルス薬(内服、点眼、点鼻)は、当院ではほぼ使っておりません。ただ、重症例で短期間使うのはよいのではないかとは思っております。なお、インターフェロンは全く使っておりません。
サプリメントには期待したいところですが、現状ではなかなか難しいです。最も有名なのはL-リジンというものですが、これは有効なのか無効なのか、いろいろな論文が出ていてはっきりしません。当院では現在は使っておりません。
最近は猫風邪への使用がゴリ押しされているサプリメントもあります。当院では5頭くらい試してみましたが1頭も効きませんでした。価格が高いという問題もありますので、現在は使っておりません。今後エビデンスが出たらまた考えます。
猫風邪のウイルスは駆逐できませんので、何をやってもそうそう上手くはいきません。現状、当院では、軽症であれば無治療、慢性化しつつあれば点鼻やネブライザーを勧めるという方針でやっております。