【病気解説】猫の慢性腎臓病の診断
猫の慢性腎臓病の診断について解説します。治療についてはこちらをご覧ください。
慢性腎臓病とは
慢性腎臓病は、「3ヶ月以上持続する腎障害」です。腎障害には様々な病気が含まれますが、猫では「尿細管間質性腎炎」という病気がよくみられ、これが猫の一般的な慢性腎臓病ということになります。
症状としては、尿細管の濃縮機能低下による「多飲多尿」が表れやすいです。糸球体の病気ではありませんので「タンパク尿」が生じることは少ないです(犬では糸球体の病気によってタンパク尿が生じることが比較的多いです)。
初期症状は多飲多尿ですが、進行すると尿毒症症状が表れてきます。
腎臓病の診断について
・血液検査一般的にはまず血液検査を行います。「BUN」「クレアチニン(CRE)」「SDMA」などの項目が腎機能の指標であり、数値が高い場合は腎機能低下と判断されます。その他に「リン」「カルシウム」「カリウム」「赤血球(ヘマトクリット、ヘモグロビンなど)」などの項目も測定します。
なお、腎臓以外の問題によって腎数値が高くなる場合もあります(腎前性腎不全・腎後性腎不全)。腎前性は「脱水」「心不全」など、腎後性は「尿閉塞」などが挙げられます。また、慢性腎臓病ではなく急性腎障害の場合もあります(後述)。それらは血液検査だけではわかりませんので、他の検査(触診、X線、超音波、尿など)も併せて行い、症状や経過も含めて判断する必要があります。
・超音波検査
腹部超音波検査で腎臓の大きさや形状を確認します。
腎臓が萎縮していたり内部構造が不明瞭になっていたりする場合は一般的な慢性腎臓病の可能性が高いです。一方で、腎臓が腫大している場合は「リンパ腫」「腎臓癌」「FIP」「糸球体腎炎」「アミロイドーシス」「多発性嚢胞腎」など、一般的な慢性腎臓病以外の腎臓病の可能性が高くなります。
また、結石(腎臓・尿管・膀胱・尿道)や尿閉塞の有無も確認します。
・尿検査
猫の慢性腎臓病では、尿が薄くなって尿比重が低下することがほとんどです。尿比重が低下していない場合は、特殊な腎臓病や腎臓以外の病気を考えることになります。
また、尿中にタンパクが出ているかどうかを調べるために「尿タンパククレアチニン比」を測定します。病態の把握および治療法選択のために重要となります。
・血圧測定
慢性腎臓病の猫では血圧が高くなる場合があります。血圧が高くなると眼・脳・心臓などに障害を引き起こしますし、腎臓病自体の進行も速めてしまいます。
緊張や体動のせいで正確に測定できない場合もありますが、当院ではなるべく血圧を測定するようにしております。
診断の流れをまとめると以下のようになります
・血液検査で腎機能低下を確認
・腎前性(心不全、脱水など)、腎後性(尿閉塞)の問題がないかを確認
・慢性腎臓病と急性腎障害の鑑別
・一般的な慢性腎臓病なのか、それ以外の腎臓病(腫瘍、結石、感染、糸球体疾患、嚢胞腎など)なのかを判断
・一般的な慢性腎臓病と判断した場合は、現状把握(血圧、タンパク尿の有無など確認)
次に、急性腎障害について触れておきます。
急性腎障害とは
猫の腎障害は「慢性腎臓病」と「急性腎障害」に分けられます。
慢性腎臓病は、長期間(3ヶ月以上)持続する腎障害です。一方で、急性腎障害は、数時間~数日くらいの短期間で生じる急性の腎障害です。
急性腎障害の原因としては、腎毒性物質の摂取、麻酔、外傷、感染、脱水などが挙げられますが、原因がはっきりしない場合もあります。
「急性腎障害を発症した後に慢性腎臓病へ移行」「慢性腎臓病がある上で急性腎障害も併発」などの事例もよくみられます。
慢性腎臓病と急性腎障害
血液検査で腎機能の低下が確認された場合に、それが慢性腎臓病なのか、急性腎障害なのかを鑑別する必要があります。猫の状態、経過、様々な検査所見などから推測して判断していくことになります。
一般的には以下のような傾向があります。
急性腎障害・急激な状態悪化(元気消失、食欲低下、嘔吐など)
・尿量減少
慢性腎臓病
・持続する多飲多尿
・体重減少
・腎臓の萎縮(超音波検査)
急性腎障害は命に関わる状態であり、緊急治療が必要です。症状としては、必ずしもぐったりするとは限りません。そんなに状態が悪そうに見えず「ちょっと食欲が落ちていつもより元気がない」といった程度の症状で腎数値が測定限界超えだったりする場合もあります。慢性腎臓病と違って尿量は減少する場合が多いです。
急性腎障害の転帰
急性腎障害は回復する可能性があります。可逆的な段階で回復しない場合は障害が残って慢性腎臓病に移行します。あるいは、重度の障害の場合はそのまま亡くなる可能性もあります。
急性腎障害と慢性腎臓病を混同してしまうと、「〜の治療で慢性腎臓病が治った」みたいな誤解が生じるため注意が必要です。慢性腎臓病は治りませんが、急性腎障害は治る場合があります。治療によって腎数値が劇的に改善した場合は「急性腎障害が回復した」とお考えください。
急性腎障害の治療
治療の基本は輸液です。輸液は「脱水の改善」「電解質異常(特にカリウム)の是正」という目的で行います。
ただし、尿産生が減少している場合は輸液を少量しか入れられません。何も考えずに入れると体液過剰になって胸水や肺水腫が生じます。
利尿薬、血管拡張薬、強心薬などは効果は期待できません。また、輸液によって治るわけでもありません。個人的には「腎機能が自然に回復して尿産生が増加するまでの間を少量の輸液でなんとか凌ぐ」という認識です。視診と超音波検査によって尿量・呼吸状態・心肺の状態を見ながら回復を祈ります。尿量が増えてきたら輸液も増やしていきます。基本的には入院治療が必須です。治る時もあれば治らない時もあります。
なお、もっと積極的な治療法としては「血液透析」があります。ただ、一般の病院ではできませんし費用も高額になります。希望される方は二次病院での血液透析をご検討ください。
最後に、一般的な慢性腎臓病について補足しておきます。
最初の検査について
最初の検査時は、血液検査だけでなく超音波検査、尿検査、血圧測定などを一通り行ったほうがよいでしょう。既に述べたとおり、腎臓病にもいろいろあります。特殊な腎臓病もたまにみられますので注意が必要です(特に猫が高齢ではない場合)。
2回目以降の検査について
2回目以降は、血液検査をメインに行い、たまに血圧測定やタンパク尿の検査を行うのがよいと思います。検査の頻度は状態しだいですのでなんとも言えません(1〜6ヶ月毎など)。
検査のタイミング
検査を行うタイミングとしては、「無症状時の健康診断」「多飲多尿が気になった時」「状態が悪い時」の3パターンがあります。
健康診断を行うのはよいと思いますし、多飲多尿に気付いたら検査を行うというのもよいと思います。状態が悪くなっている場合はすでにかなり進行していますので、それよりも前の段階で検査治療を開始するのが望ましいです。
若いうちは腎臓病になる確率は低いですが、たまにみられます。特殊な腎臓病の比率が高いかもしれません。個人的には「急性腎障害の発症と回復を繰り返す猫」「タンパク尿が生じていて糸球体疾患が疑われる猫」「尿管閉塞が関連した腎臓病の猫」などを経験しております。また、一般的な慢性腎臓病もたまにみられますが、発症や進行が速い傾向があるような気がいたします。年1回の健康診断もよいのですが、進行が速い病気の場合はそれだけでは早期発見は難しいです。何か体調に異常がみられたら早めに受診していただくということも重要となります。
血液検査項目について
BUNとクレアチニンは昔からありましたが、10年前くらいにSDMAというものが登場しました。また、最近はFGF-23というものが流行ってきております。
・SDMAについてSDMAはクレアチニンよりも早期に腎機能低下を検出できるとされています。ただ、その時々の状態によって数値はかなり変動します。また、クレアチニンは高いけどSDMAは高くないといった事例もよくあり、常に早期に検出できているのか私にはよくわかりません。
結局は、BUN・クレアチニン・SDMAの3つ(および尿比重・超音波所見など)を併せて総合的に判断するのがよいということかと思われます。ただ、慢性腎臓病の診断においてはやはりクレアチニンが一番適しているのでしょう。当院ではSDMAは院内で測定できないのですが、わざわざ外注まではしておりません。
早期発見云々とよく言われますが、クレアチニンが上昇していない段階では推奨されている治療はあまりありませんので、そこまで考えなくてもよいのではないかと個人的には思っております。
・FGF-23について
FGF-23は、血中リン濃度が上昇してくる前の段階で異常を検出でき、リン対策(食事、吸着剤)に役立つというものです。
検査しなくても治療自体は可能ですし、クレアチニンやリン濃度などによる判断でも大きく間違えることはありません。ただ、食事変更やリン吸着剤開始のタイミングに関してなるべく完璧を目指したいという方は検査するのがよいと思われます。